2007-01-01から1年間の記事一覧

らしきもの、夢の翻訳

黒い太い夜ごと墓石を揉む右手

『ラブソングができるまで』

DVD

この恥ずかしさは、やはり私の恥ずかしさなのだろう。人を励ますのは難しいけれど、励まされるのは、やはりうれしい。

『娼婦と鯨』

DVD

なんで浜に打ちあげられるなんてヘマをやってしまったんだろう。目の後ろに銛を刺されたあの70年前のことは別としても、まったく同じ浜に再び、なんてね。それじゃあ、自分の運を試してでもいるのかって訊かれてもしょうがない。でも神秘が謎として置かれて…

『シティ・オブ・ゴッド』『イン・ディス・ワールド』

DVD

少年はその課程の半ばで高専の門を出て行った。一歩青年に近づいた顔をして。これが希望的観測でないことを祈る。 少年はふつうには大人のような力をもたない。しかしときに(とくには生き抜くという場面において)大人以上の力をもつことがある。一人の少年…

『マスク』

DVD

仮面は、よく知られているように、見せると同時に隠すものである。曝されていたものは覆われて、潜んでいたものが露わになる。『しあわせ』という映画でいえば、主人公(たち)がずっと撮り続けていたヴィデオ映像が再生されるとき、それはちょうど仮面と同…

踏み迷い

少年の母親と話す。進路に踏み迷っている少年。正直なところ、青年よりは少年が相応しい彼だ。夢を追う子供だが、じつは現実から逃げているだけではないか。心配する母親の気持ちは、他人ごとではなく、よくわかる。わかるのだがしかし、どこかで彼を信用し…

土星の影響から逃れるべく

モディリアーニと妻ジャンヌの物語展@大丸ミュージアム・梅田を覗く。MSK、MKKらと。誰にでもなれそうで、そして今にも自分自身になれそうだったけれど。ジャンヌ。目があって、目のないひと。某所で揚げたての天ぷらをほくほくいただく。

季節はずれの

かざぐるま。風のないときには息を吹きかけたり腕を振ったり走ったり。廻す。風車。少し苦しい。かぜ。風車が回ることではじめて風のあるのを知ることがある。まわる。回る風車。たいていは楽しそうに見える。喜び。くるくる。でも苦しんでいるようにも見え…

目覚めさせないもの、させるもの

先日、家人が借りてきたDVDで映画『エターナル・サンシャイン』を観た。記憶と恋愛を扱った佳編で*1、でもまさか、そのせいだとは思えないのだが、子供の頃に優しくしてくれた伯母が夢に出てきた。大きなモーターボートの模型も。それは彼女の連れあいが作っ…

豪雨

こんなに濡れたのは久しぶり。自転車のブレイキもほとんど効かなくなって、怖かった。雨は靴のなかにまで入り込んで、足指はねっとり。それでいて親指の付け根あたりは、靴下の繊維の格子でできた孔の一つ一つまでがくっきり感じられるのが面白い。靴の甲の…

『白昼の通り魔』『太陽の墓場』

DVD

女は死なない。「誰も見とらんかったら何も起こらんのと一緒や」。死ななかった女は犯される。田舎を出た女は再び犯される。女は問いかける。犯人に刑事に。女は問いかける。犯人の妻であり中学校の恩師でもある女に。「ワイはその戸籍を呑んだんか。ほんな…

京都へ

まだまだ夏の雲の下、午後から出張。途中河原に緑多き木津川に沿って堤のうえを北上し、京都市内の中学3校を訪ねる。カーラジオから流れてきたロシア語講座のコウノワカナ先生の声に、明け方耳にした虫たちの声が蘇り、涼むというか慰められる。久しぶりの…

哀悼

さみしさのきわみが とうとうそこまであなたを うたわせてしまったのか まっとうないかりをあなたは ことばにするだけでなく とおいきおくにかさねようともしていた

さあ庭に出て働こう

どういうわけか、この夏は昨年春に亡くなった母親の夢をよく見た。そんなふうに私のなかで「さよなら」が進んでいるのかも知れなかった。あるいはそれは「さよなら」することなんてできないものがあるよ、という確認だったのかも知れない。今朝方、烈しい落…

『ああ爆弾』

DVD

オープニングは刑務所の囚人、大名大作(伊藤雄之助)と田ノ上太郎(砂塚秀夫)のふたりによる狂言もどき。やがては親分と乾分になる二人の、ぐいぐいと物語世界に引きこんでいくセリフ、音楽、身体の所作がすばらしい。カット、クロースアップ、足さばき。…

『帰ってきたヨッパライ』

DVD

海岸砂丘の最初の場面からヴェトナム戦争の有名なある写真が頭に浮かんだのだが、最後にやっぱり出てきた。写真ではなく途轍もなく大きなペンキ絵としてだが、それが回り舞台の書き割りになっていて、手前では映画の登場人物たちの処刑が、実際にその絵をな…

六甲山

暮れなずむ六甲山の山頂付近から、瀬戸内海を遙かに見下ろしている。三つ、四つ、所々に低い雲が浮かんでいる。海面までの空間を白く霞ませているそれら薄墨色の雲のひとつを切り裂くように突然稲光が走って、一瞬空が明るくなった。二、三十秒は経っただろ…

『トリノ、24時からの恋人たち』

DVD

ダニエル・ジョンストンが初恋の女性の映像をスーパー8に収めていたのを思い出して、そういえばこの映画の青年も思いを寄せる女性を手回しのカメラでフィルムに収めていたなと。少し前に見た映画。人工の光に浮かぶのは埃なのか、それとも何かの粉末なのか*…

『偶像の薄明』

私の最も内面の本性が私に教へてくれるところでは、一切の必然的なものは、高処から見た場合、そして大きな経済の意味では、同時に有益なものそのものなのである。−−人はそれを堪へ忍ぶだけではなく、愛さなければならない……「運命愛」 Amor fati これが私の…

音楽のような?

シネモザイク神戸@ハーバーランドで『トランスフォーマー』を観る。見える音楽(といっても、眼は全然追いついてないけど)。変身は音楽の愉しみ。でもオートボットのリーダーであるオプティマス・プライムの大仰なセリフがその口から洩れるとき、そしてそ…

『力道山』

DVD

この映画のいいところは、史実から自由になって、しかし「力道山」をたんなる時代の英雄としても、また闇の力に抗いきれなかった悲劇のヒーローとしても描かなかったところだと思う。もちろん個人の性格のせいだとも、その出自のせいだとも、時代の制約のせ…

文学教育

まだ全部読み切ったわけではないが、『日本文学』(8月号・特集「文学教育の転回と希望」を受けて)を久しぶりに面白く読んだ。2点だけ紹介する(以下、敬称略、また傍点や網掛けによる強調はイタリックに変えてある)。 村上呂里「ナショナルをめぐる〈声…

哭悪友

其一*1 飛行物体未確認 津軽海峡冬景致 今日何処悪魔男 色欲亢進何以止 其二*2 胡椒警部不可妨 波乗海賊若獅子 青春時代夏用心 黄昏吾愛思秋期 其三*3 笑赦此我熱帯魚 君打彼鐘手品師 恒星誕生自北宿 追憶白家粋紳士 其四*4 人生忽如遠行客 日月悠久運天機 …

仮定法と進行形

ある女の子はスカートが短いからこそ爽やかである、ということがありうる(彼女の性的な魅力がその爽やかさによって抑えられてしまう、といったことなく、である。たとえば紺野真琴のスカートがもう少しでも長かったら、あのジャンプの爽やかさがあっただろ…

花火

一昨夜と昨夜は地元の花火大会でした。人出もたくさんあったようです。家の表に出れば、花火は南の空に、そう小さくなく見えるのですが、一昨夜はその気にならず、部屋でポンパンと爆裂するその音だけを聞いていました。花火は好きです。ですが実施の日時を…

ドゥルーズ『意味の論理学』

自由な人間だけがただひとつの暴力においてすべての暴力を理解することができ、ただひとつのできごとにおいてすべての致命的なできごとを理解することができる。このただひとつのできごとは、偶然の事故が起こることを認めず、個体における恨みの力と、社会…

『灯台守の恋』

DVD

戦時の公的の名のもとに行使される暴力はしかし、平時の私的な領域においてこそ傷痕を残すものなのかもしれない。監督は『マドモワゼル』のフィリップ・リオレ。始めと終わりの現在時でもって過去をサンドウィッチにしているのは前作と同じ趣向。その『マド…

中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』

漱石はその『断片』に「カノ芸術の作品の尚きは一瞬の間なりとも恍惚として己れを遺失して、自他の区別を忘れしむるが故なり。是トニツクなり。」と書き残しているが、私にとって中井氏の本こそは、トニックである。この本には、そんなときには私もそうして…

蝉しぐれ

セミたちが激しく鳴いている。なんでも今年は四年に一度の大発生の年らしい。そう聞かされてみると、なんだか一段とカマビスしい。時雨というよりは土砂降りか。そういえば、道路にセミの死骸を見つけることも例年より多い気がする。ほら、ここにもアブラゼ…

『リプリーズゲーム』

DVD

監督は『愛の嵐』『ルー・サロメ/善悪の彼岸』『フランチェスコ』『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』などのリリアーナ・カヴァーニ。彼女も当年とって70歳。原作パトリシア・ハイスミス『アメリカの友人』は未読、これを機会に見てみたいと思うが、ヴ…