『白昼の通り魔』『太陽の墓場』


女は死なない。「誰も見とらんかったら何も起こらんのと一緒や」。死ななかった女は犯される。田舎を出た女は再び犯される。女は問いかける。犯人に刑事に。女は問いかける。犯人の妻であり中学校の恩師でもある女に。「ワイはその戸籍を呑んだんか。ほんならワイは誰や」。洪水で畑は女教師の頭の中にある民主主義のように流される。泥のなかに横たわる大小の白豚。見上げる。額に吹き出る粒の汗。滝の滴り。見下ろす。水の漲った稲田。眩しい鏡の照り返し。日傘の女。西から東へ狂気は特別急行列車を超えるように走る。「世の中は変わる。戦争が起こらなんだらワイらどないなんねん」。卒業旅行。大阪城。死刑判決。女は食べる。二人分の駅弁。女は死なない。最後に女は死んだ女を肩に担いで山を下りる。「ほんまに世の中は変わるんか。どないに変わるんや。言え。言うたれや。(・・・)。もっとましな世の中になるんか。ここにおるルンペン野郎は、みんなおらんようになるんか。汚いドヤは消えるんか。どや、言うたれ」。