目覚まし

朝、代助は三千代のおならで目がさめた。目覚ましは、短いインタヴァルをおいて二回、低く鳴った。もちろん、昨晩のうちに代助がセットをしておいた、わけではない。目覚まし自身の強い意志を感じる二発であった。代助は新しい人生を歩いて行こうと決心した。

日射し

朝方まで降っていた雨もどうやら上がったようだ。ベランダの手摺りにはまだ幾つか雨滴がぶら下がっているが、日射しはすっかり春のそれである。

離水

朝、富雄川沿いを北に向かう通勤の途中、慈光院の東隣にある溜池から鴨が離陸するのを目撃した。浮かんでいた水のうえからだから離水というべきか。羽ばたきとたぶんは足掻きでぐんぐん加速しながら数メートル、しかしいったん水掻きの付いた足を水から抜い…

『ラスト・コーション』色・戒(英題 LUST, CAUTION、2007年、中・米、アン・リー監督)

昔の上海っていうのは、こういう感じの街だったのだろうか。日本占領下の上海。祖国を裏切って力を手にしている特務機関の男と自らの恋を抗日運動という使命として生きようとする女。女は信じさせたい、男は信じたい。二人の動きを監視しているはずの、それ…

神戸元町にて

近所のあちこちに小さな雪だるまが、まだ溶けずに残っていた。MSKとおでかけ。元町では大丸前の道路が封鎖され、南京町の春節祭の一部だろう、爆竹がはぜ、銅鑼が鳴り、全長50メートル近い黄金の龍が、昨日の降雪などすっかり忘れたように、勇壮に空を舞う。…

『輝ける女たち』英題 FAMILY HERO(2006年、仏、ティエリー・クリファ監督)

DVD

家族とは、互いを理解し合うとは、をあらためて考えさせてくれる映画。たまたまふりかかった条件の下で、自分も他人も否定することなく、それぞれのらしさを生かしながら、互いに共存の道を探ろうとする無様な姿が知的でかっこいい。亡くなった人と言葉を交…

節分

そういえばもう何年も豆まきをしていない。神社、苗字、職業、地方によって、口上が「鬼はうち」「鬼もうち」のところもあるそうな。太巻きをいただく。

踏切にて

北から南に踏切を渡ろうとする手前で、きん、鳴る警報、こんきん、降りてくる遮断機の黄と黒、くり返す警告音を聞きながら、阻んだ竹竿にある節から節へと目をやって、こんきんこん、ついでまだ明け切らぬ蒼い空、見上げればいつか見たことのある、ようなな…

『バベル』BABEL(2006年、米、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)

DVD

バベル スタンダードエディション [DVD]出版社/メーカー: ギャガ・コミュニケーションズ発売日: 2007/11/02メディア: DVD購入: 1人 クリック: 92回この商品を含むブログ (261件) を見る だが、言語が存在する以上、ひとは自らの苦痛であれ、それを間違った名…

『九鬼周造随筆集』(菅野昭正編、岩波文庫、1991年)

岡倉天心(岡倉覚三)、大友兵馬、橋本雅邦、川端玉章、沢瀉久孝、ニイチェ、ギュヨー、コロー、武林文子、松田文相、カント、ポール・ヴァレリイ、西田幾多郎、天野貞祐、落合太郎、ヒルティー、モンテーニュ、メーヌ・ド・ビラン、プラトン、フォイエルバ…

勝手に

某所で紹介されていた「勝手にブログ評論」というのをやってみた。 http://onosendai.jp/hyoron/hyoron.php 何だか、わたし自身の文章に似ていなくもない。 なにかの原因が西脇順三郎にあると考えるのは、幼少期にトラウマを抱えている可能性がある。 総合得…

四方田犬彦『翻訳と雑神』(人文書院、2007年)

詩集『Ambarvaria』の作者はその晩年、ギリシャ語と漢語の比較研究に没頭し、同僚や弟子を二十年以上にわたって悩ませ続けた。しかしそれは西脇順三郎の詩業と無関係な営為ではなかった。そこには「完全にして純粋な言語、永遠に到達不可能なユートピア言語…

『敬愛なるベートーヴェン』Copying Beethoven、2006年、イギリス・ハンガリー、アニエスカ・ホランド監督

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神の声を聴くBeastと野獣の耳をよく知るBeauty。しかし世代の開きなのか、男女の差異なのか、それとも才能の多寡なのか(そのどれでもないような気もするけれど、とにかく)、彼らには容易には越えられない懸隔*1があって、それを皮一枚残したままの近接であ…

金聖響&玉木正之『ベートーヴェンの交響曲』(講談社、2007年)

4128に7じまずいたよベートーヴェン5963と知ってはいても

国立国際美術館「30年分のコレクション」展

浜口陽三の版画、宮本隆司の写真など見る。畠山直哉、杉本博司の写真はそれぞれ2作のみの展示。美術館を出てすぐに古い薬局の大きな看板が目にとまったのだが、反対隣りに小さな教会があったことにもはじめて気がついた。

W・G・ゼーバルト『土星の環』(鈴木仁子訳、白水社、2007年)

表紙にも使われている写真はこの教会塔のことなのだろうか。 ……といった教区教会が、侵蝕によってじわじわと後退をとげていった崖の端からひとつまたひとつと海に落ちていき、そのむかし町が築かれていた土台もろとも、徐々に深い海底に沈んでいったのだ。………

『三人の名付親』THREE GODFATHERS(1948年、米、ジョン・フォード監督)

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『ジェリー』GERRY(2002年、米、ガス・ヴァン・サント監督)

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上の映画を見た人は、この映画を思い出したかもしれない。荒野を彷徨うことになる若者二人が、最初に見知らぬ家族連れと挨拶だけを交わしてすれ違う場面がある。最後に残った一人の若者が、とうとう道路に出ることができて、拾ってもらって乗っているのは乗…

『ダフト・パンク エレクトラマ』DAFT PUNK'S ELECTROMA(2006年、英、トーマ・バンガルテル&ギ=マニュエル・ドゥ・オマン=クリスト監督)

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ラマ(ロマ)ってジタンとかツィゴイネルと呼ばれている人たちの自称のあのロマ? 放浪する人々? 2体の電気ロマが人間になる夢を見て…。ダフト・パンク エレクトロマ [DVD]出版社/メーカー: エイベックス・ピクチャーズ発売日: 2007/09/26メディア: DVD ク…

濃霧

池いっぱいに溜まった水のように盆地を埋めた濃い霧だった。高く煙った霧の中空からぬっと太陽が現れた。輪郭もくっきり。ふだんなら直視することのできない角度にまで昇った太陽が鮮やかなオレンヂ色をして。まん丸からやがて半分のそれになりするうち雲間…

『クィーン』THE QUEEN(2006年、英・仏・伊、スティーヴン・フリアーズ監督)

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ダイアナが亡くなるシーンも、大鹿が撃たれる映像もない。女王が立派な角をもった牡鹿と再会するのは、すでに首(王室?)が逆さに吊られた胴体(民衆・民意?)から切り離された後である。ブレアに忠告された女王が一人で決断に苦しむシーンもない。彼女が…

『ボンボン』El Perro(英題『Bombón: El Perro』、2004年、アルゼンチン、カルロス・ソリン監督)

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勤め先を突然解雇された初老の男ビジェガスはひょんなことから大きな白いドゴ犬ボンボンを飼うことになる。人々との出会いの数々、仮住まいと移動が続く浮浪の生活をともにすることで、ビジェガスとボンボンは次第に深い絆で結ばれていく。犬や猫と暮らすと…

山内志朗『〈畳長さ〉が大切です』(岩波書店、2007年)

誤謬の自己訂正や安全性・安定性に寄与するものとしての冗長畳長性から、偏差や新しさが認識できるようになる可能性の条件としての畳長性、そして生物の多様性の基体としての畳長性まで。主に情報理論で扱われるその範囲をコミュニケーション論から存在論や…

『エリザベス1世〜愛と陰謀の王宮〜』(2005年、米・英、TVM)

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イギリスでテレビドラマとして放映された作品で前編・後編の2枚組です。日本では2006年にNHK(BS-Hi)で放映されたようです。ヴァージン・クィーンである自身の大きな振幅のある愛憎と隣国の脅威や取り巻きの陰謀に悩まされた生涯を史実に忠実に描いているよ…

新年あけましておめでとうございます

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

この秋にある番組の録画を見たことをふと思い出した

それは、2003年にNHKのETV特集で放送された番組『プリーモ・レーヴィへの旅〜アウシュビッツ証言者はなぜ自殺したか〜』で、家人が同僚に借りてきたというヴィデオ(のちにBSハイビジョンで再放送したのを録画したもの)である。そのときに『アウシュヴィッ…

『クロッシング・ザ・ブリッジ 〜サウンド・オブ・イスタンブール〜』

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クロッシングには、航海や横断という意味以外に、反対や妨害といった意味もあったはず。古今を、また東西を、橋渡しする交差と衝突の都市イスタンブールの音楽シーンを取材したドキュメンタリー。ドイツの前衛バンド、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテ…

プラットフォーム小景

恋人たちの片方が別れ際にそっと手をあげる。ためらいがちにもう片方がそれに応える。扉がスライドして、隔てられた二人はしばらくは微塵も動かない。やがて滑り出す列車。そしてもう一度、もう堪えきれないとでもいうように、いや、もうここまできたらいい…

『太陽に恋して』

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冴えない教育実習生ダニエル(モーリッツ・ブライプトロイ)は、彼を密かに慕う露店商のユーリ(クリスティアーネ・パウル)から太陽の指輪を売りつけられ、パーティに誘われる。「彼は出てくるのを待ってる何かをその奥深くに持ってるのよ」。しかしそこで…

オーブン任せで楽々

MSK購読の新聞に先日紹介されていた料理「簡単おもてなし編」(チキンのロースト バルサミコソース)を作ってみた。レシピは2人分のだったので量を倍にして。鶏もも肉2枚は皮目に穴をあけ、岩塩・黒胡椒で下味を付け、マリネ液(ローズマリー2本とニンニ…