季節はずれの


かざぐるま。風のないときには息を吹きかけたり腕を振ったり走ったり。廻す。風車。少し苦しい。かぜ。風車が回ることではじめて風のあるのを知ることがある。まわる。回る風車。たいていは楽しそうに見える。喜び。くるくる。でも苦しんでいるようにも見える。ぐるぐる。ペダルを漕いで富雄川沿い。走る。川よりも速く。ぼくらの自転車。南へ下る。コスモス。揺れている。かあかあと歌う少女たち。その傍らをぼくらの自転車も揺れながら過ぎていく。があがあと迫る少年たちのバイク。煽られた記憶が荷台から滑り落ちる。気配。轢かれた思い出がシミになるまでの時間。陥没。約束が出ていった跡。鳥の翼のかたちをしたまっしろな告げ口。舫いのまっかなロープも解けて。ぼくの自転車は君に。きみの自転車は僕に。追いつけない。ジャイプールの安宿の屋上から羽ばたいて地上に連れ戻されたフランス人ジョルジュ。抑揚のない英語。ザティスザポイン。同意し励ましてくれた彼の腰骨が折れる音。翻訳の要らない。風は海から吹いて虎落笛がどこからか聞こえてくる。高い竿の上で回っている矢車。かたかた。はだかの砂の墓場に少しずつ忍び寄る波。濡れるまいと必死で漕ぐペダル。ぼくらの自転車はやはり揺れながら林立する巨大な墓石の見えない森のなかを過ぎていく。がたがた。回る。まわる風車。目眩を愉しむ子供。『しあわせ』。喪。殯のとき。生と死が眩しさのなかで交錯する。移ろい。茸の笠。スカート翻し倒れるまで回転を已めることなく旋舞し続ける僧たちを見ているとぼくの風車もくるり回りはじめる。苦悩と陶酔。地球は自転しながら太陽の周りを公転する。『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』。月もまた自転しながら地球の周りを公転する。カルカッタのリクシャワーラーが誘いかける。その自転と公転の周期が同じなために月にはダークサイドが固定される。スクールガールの胸にも風車が回る。糸車を廻して抵抗しない抵抗というものを自ら示してみせる丸メガネ痩身の老爺。破顔一笑。背を向けようとするものたちをまで巻き込んで。くるくる。回りながらガンジスのように蕩々と流れていく老婆。この河にたとえピラニアのような肉食魚がいたとしても彼らを寄せつけるどころか自らの肉を振りちぎる勢いで弾き飛ばす。ぐるぐる。『蜘蛛巣城』。マクベスが王になると予言する魔女の代替として現れる老媼の廻す糸繰車。かたかた。きれいはきたない。がたがた。きたないはきれい。引き出された台車に柩の影はなく肉は灰になり骨だけが元のかたちをとどめている。遺族の感情を慮ってか頭蓋骨はそれでも適度に崩されている。骨壺に入るように大きな骨はさらに砕かれて。熱いまま暗い小さな空間に移される。母をそこに見ることはもはやできない。イメージはしかし向こうからやってくる。明日ホールで。突然の風。あすまたね。受けつつ逸らして。回る風車。