中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』


漱石はその『断片』に「カノ芸術の作品の尚きは一瞬の間なりとも恍惚として己れを遺失して、自他の区別を忘れしむるが故なり。是トニツクなり。」と書き残しているが、私にとって中井氏の本こそは、トニックである。この本には、そんなときには私もそうしてみよう、と思えることが書かれている。医療関係のスタッフだけでなく、教育関係者が身につけるべきハウツーとしても参考にすべき点が多々あると思う。医師・看護師の合同研修会での講義がもとになっていて読みやすいし、巻末の索引には「いまはまだ向かい風のときだなぁ」「治るとは病気の前に戻ることじゃない」のような「医療者側の発する言葉」がたくさん太字で項目化されていたり*1、著者による「精神保健いろは歌留多」が付されていたりするのもうれしい。「ろ○論より実感」とか「わ○忘れたらそのままにしよう」とか。あ、「ま○迷ったら森の奥に逃げるな」というのもあったんだ。

*1:こんなのも項目化されている。「ほお!」「ほぉーっ」「ほぉ?」