踏切にて

北から南に踏切を渡ろうとする手前で、きん、鳴る警報、こんきん、降りてくる遮断機の黄と黒、くり返す警告音を聞きながら、阻んだ竹竿にある節から節へと目をやって、こんきんこん、ついでまだ明け切らぬ蒼い空、見上げればいつか見たことのある、ようなないような、いや見たことなんてあるはずのない、下弦も過ぎて欠けの進んだ月がほぼ正中しつつあり、「は」と「ほ」のあいだの音が出そうな口をあけて、喉をこするようにゆっくりと、でもしっかり強くも吐きだした息が、ごとん、宙に白く濁るかどうか、がたん、寒さを確かめ、電車が、ようとして、横切っていく、たのに、窓を通して明るい客車の中にはっきりと見える人々、やがて、がたごとん、その人びとのひとりに自分もなるのだな、などと、もうさっきまでの目論見もすでに、けれども自分を誤魔化したというわけでもなく、忘れてしまっても、やっぱり結構寒いのか、ぶるっと身震いひとつして、バーが上がり、行く手が開ける。