『ボンボン』El Perro(英題『Bombón: El Perro』、2004年、アルゼンチン、カルロス・ソリン監督)

勤め先を突然解雇された初老の男ビジェガスはひょんなことから大きな白いドゴ犬ボンボンを飼うことになる。人々との出会いの数々、仮住まいと移動が続く浮浪の生活をともにすることで、ビジェガスとボンボンは次第に深い絆で結ばれていく。犬や猫と暮らすというのも、畳長性を付与するということなのだろう。主演のフアン・ビジェガス*1をはじめ多くが演技経験のない役者たちらしいが、彼らのぜんぜん演技っぽくない身ぶりや表情、発声やその抑揚、間の取り方は、逆にカメラの動きやフィルムのつなぎのほうに意識を向けさせる。この映画、一見ドキュメンタリーふうなのだがけっしてそうではない。劇的効果をむしろ排除する意図をもってしっかり拵えられた劇映画である。パタゴニアの荒涼とした自然が背景なのに(だから?)何ともしみじみほんわかな映画でした。


ボンボン [DVD]

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*1:彼の、どうかすると小悪人にも見えてしまいかねないほどの、朴で訥な、円らな瞳。これにだまされてはいけない。映画です、あくまでも劇映画です。ハンドルを握る男と男の視線の先にある寥々たる自然とのあいだには、砂塵がつくる細かい疵のせいか磨り硝子のように曇ったフロントグラスがある。それはガソリンスタンドの女店員がいくら汚れを洗い落としてもいっこうにクリアにはならないのだ。