おおい、おおい

壁に囲まれ視界が限られているせいで下に覗く水の量塊のほうへとそのまま落下していきそうな気持ちになる急で狭い階段を降りる。フランスとスペインの国境ではないから店に入って明るい吹き抜けのスペースに案内されるとそこに並べられたテーブルからは北向きの壁一面分の窓ガラス越しに武庫川とその上にS字に捻って架けられた宝来橋が見える。たいていは水量がそう多くなくかなりの部分でごろごろした丸い石が川底から顔を出している川面に今日はそれでも水鳥が何羽か見える。橋をささえている太くてずんぐりとしたコバンザメのような橋脚を眺めていると、最新式の大型飛行船の底部につり下げられた客室のようにも見えてくる。水面すれすれからの視線は、水鳥の足掻きが作りだす波の同心円の拡がりを捉えることはないだろう。異世界からやってきた乗客たちは窓のないキャビンからオペラのアリアとラップの重唱を聴くことができるだろうか。そして時空の裂け目からその下半身を晒しつつあるツェッペリンの左半身のほうは、傾きはじめた冬日を浴びている。