『エレニの旅』

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@第七芸術劇場。根こぎ。これがまず最初に浮かんだ言葉。カタルシスのない悲劇は、ほとんど神話。これほどまでの悲惨さにもかかわらず(だからこそ?)、涙は滲みもしませんでした。美しい映像そのものが、視ている私なんかそっちのけに悲しいせい? 軽やかな音楽そのものが、聴いている私なんかおいてけぼりに惨めなせい? 地上のあらゆるものを浸し侵していく夥しい水(雨、河、洪水、海)。還ること(とその難しさ)。恩師が遺した句にあった帰泉という言葉が思い浮ぶ。テオ・アンゲロプロス監督作品。DVD(asin:B000BFLABM)も出ているようです。

夏はにわかに終わった、雨の一滴とともに。
前には星の光を放った言葉もしとどに濡れてしまった。
きみ一人宛の言葉だったが。
どこできみと手を取り合えばよいのか、
天候はもうぼくらのことを考えないのに?
何に眼を休めたらいいのだろう?
水平線は雲で難破してしまった。
きみは睫を伏せて、もう風景が眼に見えぬ。
−−霧が二人の身体を通り抜けて行くみたい−−
ぼくたちだけ、ほんとうに二人ぼっち、周りはきみのやつれたイメージばかり。

(エリティス「エレニ」第一聯(『定位』1941)『現代ギリシャ詩選』所収)

現代ギリシャ詩選

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