『死ぬまでにしたい10のこと』


死ぬまでにしたい10のこと [DVD]

死ぬまでにしたい10のこと [DVD]


月がでっかいのにすでに真っ暗になってしまっている夕刻に、みるみる小さくなるその丸い月を見ていて思い出したのが、ちょっと前に見た『死ぬまでにしたい10のこと』で主人公のアンを演じたサラ・ポーリーの顔だった。
原題である「My life without me」は、もちろん彼女の死後のことをいっているのだが、高校時代に妊娠・出産してしまってから後、23歳のいまに至るまで、母親の家の庭に停めたトレーラーに寝泊まりし、優しい定職のない夫とともに幼い二児の育児という現実を抱えながら働きにも出ていた彼女にとっては、その生前(それはふつうには青春と呼ばれる時期でもある)にしたところで、かなり「without me」なライフだったともいえるわけで、だから不治の病を宣告されたあとの彼女は、彼女の死後、残されることになる幼い子どもたちや夫の未来の生活が、そのまま彼女の「My life」であるようにと、できる限りのことをしておこうとしてテープに声を吹き込んだり、夫に新しい妻(したがって子どもたちには新しい母になるべき人)を用意?したり、それこそ必死になる。
そしてそれはまた残りわずかな彼女自身の人生を真に「with me」なものにすることでもあり、その行動のひとつが婚外の性的交渉になったりもして、でもそのことよりも自分の病気(が致命的なものであること)を家族の誰にも打ち明けないことのほうが、彼女の自分勝手ではないかとひっかかりもしたのだが、とにもかくにも、精一杯に生きようとする彼女の顔にこちらを惹きつける力があって、それはたしかに性的な、しかし透明感のある魅力であり、彼女に子どもがいるという設定でなかったら、はたしてその同じ感じがそこにあったかどうか。雨に打たれながら、素足で地面の土を感じ直してみるのがいいのかもしれない。ほんとうのことの、軽さも。