『終わりで始まりの4日間』



穴を掘ること。
そこに現出した空虚を自らの存在でもって埋めること。
あるいは、深い穴の底に向かって大声で叫んでみること。


母が浴槽で溺死したのをきっかけに、長年離れていた故郷に戻ってきた青年。
イメージだけの母は、実際のボディが画面に映されることはない。
すでに柩に納められた、見えない母が、墓穴へと埋められる。


青年が身を沈めるのは、実家にある、お湯の張られていない空の浴槽だ。
このバスルームだけが、母によって改装されたのだという。
そしてその母は、青年に、まだ幼い頃の息子に、突き飛ばされた結果、その半身の自由を奪われ、車椅子生活を余儀なくされていた。


息子の狂気を恐れ、彼をホームから放り出した父。
なのに薬漬けにすることで、なお青年を自らのコントロ−ル下におこうとした父だ。
その父との軋轢を乗り越えて、対等の人間として「和解」することができたのは、寄り添ってヒトツ穴に一緒に身を沈めてくれる彼女がいたからだった。


「家族というのは、たぶん、同じ場所を恋しく思う集団だ」と青年は彼女にいう。
母を亡くして、いったい何を失ったのか、わからないでいたのだが、つまりは「ホーム」が無くなっていたのだった。
それはしかし、そのことに気づいた人間が、新しく「ホーム」を築いているということなのだろうか。


大きく深い穴の底に向かって吼え叫ぶ青年は、自分のなかに潜在している狂気にハロー/グッバイを言っているように見えた。
自律への、他律の内面化ではない自律への、一歩?