『トランスアメリカ』

Breeがfleeせずにbleed/breedしつつbreezeのようにfreeを生き抜こうとする話、だろうか。ボーダーを越えるという問題をやはり扱っていて、「父と子」と「母親と息子」の両テーマを併せもっている映画だけど、シリアスなだけじゃなくて笑えるシーンもたくさんあって楽しめる。そういえばここでも車の中で聞く音楽の決定権を争っていたっけ。完全な和解ではなく含みを残したラストで、でもそれだけにウソっぽくない。未来へと進むためにも、過去には背を向けない。認め合うけれども、自分を枉げたり縮めたりはしない。そんな互いが近づける方向へと開かれた結び。そのシーンはビールを飲み交わすふたりを捉えた窓の外からのカーテン越しのショット。見守りつつも少し安心してリリースする感じ(って、いったい誰の?)。
本当に元はオトコなんじゃない?と思わせるブリー役フェリシティ・ハフマンの演技には脱帽。彼女がよだれを流して泣くシーンも圧巻だけど、その目がいちばんすごいかも。『太陽』(ソクーロフ)の桃井かおりもそうだったけれど、ハフマンもまた目だけで絶望をも希望をも自在に示すことのできる女優さんだ。『ダンス・ウィズ・ウルヴス』の「蹴る鳥(Kicking Bird)」役のグレアム・グリーンがかっこいい先住民の男カルヴィン役で出ている(「どんな女性も秘密を持つ権利はある」だってさ)。彼がトビー(ケヴィン・ゼガーズ)に贈った友人の形見であるカウボウイ・ハットが、トビーとブリーの縁をつなぎとめてくれる*1ドリー・パートンが歌う「Travelin Thru」も(とくにその声が)マッチ。
http://www.transamerica-movie.jp/
Transamerica』、2005年、米、ダンカン・タッカー監督作品。

*1:この映画、他にも帽子がけっこう重要な役割をしているのだが、そういえば『太陽』には桃井皇后が帽子を髪に留めているピンをはずすのを尾形天皇が手伝う、というシーンがあったのを思い出した。たしかそのあとに「マザーの胸に顔を埋めるサン」という感じの絵になるのだったか。