『ハリーの災難 [DVD]』

はじめて見る。もはや口を利かないボディが主人公のブラック・コメディ。生きている人間だけが自分を守ろうとする。その間の抜けた奇妙に平静な狼狽ぶりが、なんとも可笑しい。トラッキングズーミングを併用した「めまい」のようなショットはないが、大胆な構図のカットが時折挿入される。見せる見せないを緻密に計算した画面(と音響や音楽との組み合わせの妙!)を巧みにつないで、見る者のはらはら感を持続させる力はさすが。シャーリー・マクレーンはかわいさのなかに、ミルドレッド・ナトウィックは淑やかさのなかに、それぞれ艶めかしさを隠していて、エドマンド・グウェンとハンフリー・ボガートを少し縦に引き延ばしたような男優(ジョン・フォーサイス)のコンビも、とぼけたいい味を出している。アメリカでよりもヨーロッパでの成功でやっとペイできたというのが納得のユーモア。