『鉄コン筋クリート』

鉄コン筋クリートall in one (ビッグコミックススペシャル)

映画だけを見ていて、気になっていた原作をはじめて読んだ。シロが種を植えたリンゴがちゃんと芽を出しているということもあってか、こちらのほうが、互いを含みもつクロとシロの結びつきが前に出ている感じで、それに比べると映画のほうは、二人の離れがたさや善悪のせめぎあい、大人へと生まれ変わっていく問題などよりは、むしろ町というか社会システム（登場人物の心理的現実にはお構いなしにシステムこそは存続する！）のほうが前に出ているような気がした。映画におけるディテールの周到で緻密な描写にあらためて感心すると同時に、原作にはくっきりとしたモノトーンの（それこそクロとシロの）世界のバランスの妙というか、血と影と闇を描くベタ塗りに拮抗して、けっしてそれらに引けを取らず、のほほんとした脳天気ささえ感じさせる余白に、なんだかありがたさのようなものを感じた次第。「暗いと不平を言うよりも、進んで灯りをつけましょうってな。」（byねずみ）