『肝臓先生』


肝臓先生 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)


ブックハンティングで購入した本が図書館に並んでいて、そのなかでこれが目に入ったので借りてきた。
カンゾー先生」という映画があったけど、わたしは見ていなくて、その原作だということも、今回はじめて知った。
それくらいなので、この本に収録されている短篇の五作すべて、恥ずかしながら初読である。

 私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。ともかく私は始めから地獄の門をめざして出掛ける時でも、神様の国へ行こうということを忘れたことのない甘ったるい人間だった。私は結局地獄というものに戦慄したためしはなく、馬鹿のようにたわいもなく落付いていられるくせに、神様の国を忘れることが出来ないという人間だ。私は必ず、今に何かにひどい目にヤッツケられて、叩きのめされて、甘ったるいウヌボレのグウの音も出なくなるまで、そしてほんとに足をすべらして真逆様に落とされてしまう時があると考えていた。
 私はずるいのだ。……(「私は海を抱きしめていたい」)p30


「ジロリの女」は長さもあって、いちばんチカラが入っている。
ひょっとして漱石はこんな小説が書きたかったのではないか、とふと思った。
「行雲流水」がアッケラカンとしていて、じつに気持ちがいい。
この作だけ一人称の「私」が語り手でない、ということもあったかもしれない。


自分を拒絶するものに「ふるさと」を見る安吾は、一個の大変であり、渾然として醇なる人である。
池内紀の解説も「人一倍思いが強い」人をくっきりと描いていて見事。
買った人より先に借りたかもしれないので、すぐに返します。


追記
今年は坂口安吾の生誕百年にあたるようです。