『初恋』

060621.jpg



@シネ・ピピア。
3億円事件は、子供心に、捕まるなよって思ってた記憶がある。
結局サルトルにもランボーにも追いつけないまま、ここまできてしまいましたが。


オートバイに絡んで印象的な場面が多かった。
みすずが運転を覚えていくシーン(宮崎あおいのヨロコビの表情!)がいい。
岸って名字はけっこうモロ出しだけど、そんな過去の亡霊を振りきってしまいそうな小出恵介も、ちょっとジャン・ポール・ベルモンドスティーブ・マックィーンな感じで、いい。
みすずの視点から固定的に捉えていたカメラが、この岸の内面を直観し、その屈折に同調するかのように最後にわずかに揺れていたような(ジャズ喫茶Bでの初対面のときだったか)。
「大人になんかなりたくない」
「合格だ」
しかしこの出会いのとき以上にふたりがつながり合えた時間はなかったのかもしれない。
このあと、彼らは隣りに並び合いはしても、正面から向かい合うことはほとんどないのである。
ラヴホテルで向き合う場面では、みすずを斜めにさせることで二人の顔が同じフレームにおさめられていたけど、そんなところにも彼らのズレ具合が示されていた気がする。
(岸のちょっとした動きにも過敏に反応する少女を、切り返しのショットでつなぐ前にとらえたい、ってことなんだろうか。まあ実際には、やっぱりカットがあって、そのカットとカットのあいだにこそリアルなものがあった気がしたけど。)
岸に同期しようとするみすずは、彼と同じようにステアリングを指でたたく仕草や彼の時計を持ち去る行動によって描かれている。
最後は、その距離をいっきに縮めて、オートバイのタンクの心地よい冷たさを味わったときのように、その頬でもって直接に温もりを(冷たさを!)確かめようとさえするのだが、それは彼らの出会いそこないを埋め合わせるものではない。
岸が書き残した言葉が、出会いそこないの、しかしそれこそ出会いというしかない出会いを、これもまた偶然に、確認させることになる。
ふたりは、むりやり大人にさせられる(権力によって?孤独によって?)。
しかしラストの、みすずの表情のうちに、けっして強いられてなったのではない大人の部分が、ふっと浮かびあがるのは、これはうれしい。
(これはたとえば『すべてが狂ってる』(鈴木清順)にはないものである。)