『ザ・インタープリター』


ザ・インタープリター [DVD]

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国連でクー語を担当する同時通訳者シルヴィア・ブルーム(ニコール・キッドマン Nicole Kidman)の使命は、基本的には固有名詞を披露することだ。
固有名詞は「翻訳」を必要としない。
これは皮肉である。
しかし彼女は、マトボ共和国の民主化を望んだ活動家たち一人ひとりが、いつどこでどのように殺されたかを、殺した張本人である独裁者ズワーニ自身に報告させている。
国連での大統領声明を、犠牲者たちへの弔鐘として「翻訳」することでもって、はじめて彼女の仕事は完遂する。


たしかベンヤミンは、異質な言語の内部に呪縛されている純粋言語を自らの言語の中で救済することが、あるいはまた自国語を外国語によって揺さぶり、拡大し深めることが、「翻訳者の使命」だと書いていた。
異質な言語を内部に見出すのか、それとも外部から外国語をもってくるのか。
いずれにせよ、アメリカの立ち位置を吟味し直そうとしている点では、「ミスティック・リヴァー」のイーストウッド同様、ポラックもまた、使命を果たそうとしている「翻訳者」なのかもしれない。
シルヴィアを疑いながらも、彼女を守り、やがては同じ最愛の家族を喪った者同士として心を通わせていくシークレット・サービスのトビン・ケラー役をショーン・ペン(Sean Penn)が演じている。


『THE INTERPRETER』、2005年、米、シドニー・ポラック Sydney Pollack 監督作品。