この秋にある番組の録画を見たことをふと思い出した

それは、2003年にNHKETV特集で放送された番組『プリーモ・レーヴィへの旅〜アウシュビッツ証言者はなぜ自殺したか〜』で、家人が同僚に借りてきたというヴィデオ(のちにBSハイビジョンで再放送したのを録画したもの)である。そのときに『アウシュヴィッツは終わらない』も再読したのだった。案内人である徐京植(ソ・キョンシク)の本『プリーモ・レーヴィへの旅』のほうは、ずっと前に、同僚のKさんから借りて読んだきりだったのだが、この番組では、徐京植への返信にあったルチア・レーヴィ夫人の彼の立場を思いやって書かれたことば(何にも勝る喜びを覚えましたのは、夫プリーモが残した作品によって、あなた様の人生、ご家族の苦しみと悲しみを少しでも癒し、生きる励ましになったことです)、プリーモがパルチザン活動をしていたときに聞いたはずのスイス国境近くの山岳地帯の渓(アオスタ渓谷)を流れるポー川支流(ドーラ川)の水音が、印象に残った。その川のさざめきを聞きながら、徐氏は「金」(『周期律』所収)という文章にある次のような話を紹介していた。プリーモ・レーヴィが囚われの身になってアオスタの兵舎に収監されていたときに知り合った男から聞いた話。ドーラ川からは僅かだが砂金がでる。半月の夜に川にある幾つかのポイントで川底を掘ると砂金が採れる。そうやって秘密の場所を代々に伝えながら、誰にも従属せず、自由に生きている一族がいる。自分ももし生き延びることができたら、そんなふうに自由に生きてみたい。